フリーランスで働く人が増えています。
終身雇用制が崩壊したことや、クラウドソーシングなどフリーランスを支援するサービスが普及したこと、コロナ禍で多くの人が在宅ワークに目覚めたこと、などが要因として考えられます。
以前は珍しかったフリーランスのITエンジニアも、そんなに特殊な存在ではなくなりました。
未経験からフリーランスのエンジニアを目指す人も多くなっています。上の事情に加え、ネットを通じた多様な学び方で技術習得が可能になったことも一因となっているようです。
この記事では、どういう人がフリーランスエンジニアを目指すべきか、フリーランスエンジニアとはどういう働き方なのか、未経験からどうやって目指すのか、といったことについて考えます。
フリーランスエンジニアになるべき人
本稿のテーマは「未経験からフリーランスのエンジニアへ」ですが、この中には「未経験」「フリーランス」「エンジニア」と、大変な要素が3つも入っています。
エンジニアになるだけでも大変なのに、フリーランスでやっていく、しかも未経験から・・・
こう考えると途方もない話ではあります。3ついっぺんに達成するのはさすがにハードルが高いので、ここではまず「フリーランス」と「エンジニア」に話題を絞り、どういう人がフリーランスのエンジニアに向いているか、ということを考えてみます。
十分なスキルと実績のある人
「信頼と実績」はよくある企業の宣伝文句ですが、仕事を得るために大事なことを簡潔に言い表しています。
どれくらい仕事ができるかわからない人に仕事を任せてくれる奇特な人はそうはいません。やはり、頼む側としてはその仕事をできそうな人、似たような仕事をやったことがある人に任せたくなるものです。
企業に属している場合は、その企業名が「信頼と実績」をアピールしてくれる場合もありますが、フリーランスではそうもいきません。目に見える形のスキルや実績が必要です。
具体的には、資格とか過去にやった仕事やポートフォリオということになるでしょう。以前勤めていた企業名、というのがそれを肩代わりしてくれることもあるかもしれません。
そのような「信頼と実績」が十分にある人ならば、フリーランスエンジニアとして一本立ちすることは可能です。
とにかくプログラミングが好きな人
十分なスキルや実績を得るまでは、プログラミングを自主的にたくさんする必要があります。世間ではそれを「努力」といいます。
ところが、そういうことをまったく努力と感じない人もいます。自分に強いなくても自然とできる、むしろやらずにはいられない、やるなといわれてもやる、難しい課題になればなるほど喜びを感じる、そういう人です。
つまり、プログラミングが好きな人です。
ことプログラミングに関しては、好きに勝るアドバンテージはないような気がします。慢性的な人手不足の中、必ずしも大好きなわけではないけれども、仕事だからやっている、という人も多いらしいと噂に聞きます。
そんな中でプログラミングが好きというのは、それだけでもう十分な才能と言えるでしょう。フリーランスエンジニアとしてやっていくには様々な困難もあるでしょうが、「好き」がそれを跳ね返してくれるのではないでしょうか。
自ら学ぶことをいとわない人
IT業界は常に進歩しています。激しく変化し続けています。日々、新しいテクノロジーが生み出されています。
今あるのと同じような案件が5年後、10年後にもあるかどうかはわかりません。今、腕があるといわれている人でも、同じことをずっとやり続けていては、いつかやっていけなくなる恐れがあります。とりわけ、フリーランスの場合はそうでしょう。
ITエンジニアである限り、学び続けなければなりません。日々の案件をこなしながら、スキルアップをはかり、情報にアンテナをめぐらし、新技術を吸収し続けるのです。
上で述べた「プログラミングが好き」ということとも関係します。好きであれば、おそらく学び続けることに苦痛はないでしょう。
たとえ「それほど」という人でも、コツコツと学び続けることができるならば、やっていけそうです。逆に、今は好きであってもあまりの情報量に学びを疎んじるようになれば、将来は危うくなりかねません。
最終的に物を言うのは学び続ける力です。
多くの人脈がある人
業種を問わず、フリーランスにとって大きな武器になるのは人脈です。
案件は、知り合いから、あるいは知り合いの知り合いから回ってくることも多くあります。業界内に知り合いが多いほど、仕事を得る機会も多くなるのは道理でしょう。
よい人脈は大切にしておきましょう。
フリーランスエンジニアになる理由
会社勤めのエンジニアという道があるにも関わらず、あえてフリーランスという道を選ぶ人が少なくないのはなぜでしょうか。
もちろん人によって感じ方は違うでしょうが、安定とは引き替えにできないほどの魅力がフリーランスにはあるに違いありません。
ここでも引き続き「未経験」という縛りを取っ払って、人がフリーランスエンジニアになる理由を考えてみます。
自由な働き方をしたい
フリーランスには、文字通り自由があります。とはいえ仕事はしなければならないので、ある程度の自由、ということになりますが、少なくとも働く時間や場所に関しては、お勤めの方よりは融通が利きます。
コロナ禍で在宅でも仕事ができることに気付いたとか、もっと家族と顔を合わせる時間を増やしたいなど、様々な理由でフリーランスを目指される方がいるようです。
より稼ぎたい
お金という大事な問題もあります。
自分のスキルがあれば今の会社にいるよりももっと稼げる道があるのではないか、と感じたならば、選択肢にあがってくるのが転職かフリーランスになることです。
フリーランスならば、同時進行で複数の案件をこなす、という稼ぎ方も可能です。複数の職業を兼業することもできます。また、機を見て起業を目指すということもできるでしょう。
ただし、単価をアップできなければただのオーバーワークに陥ってしまう恐れもあります。また、会社勤めで得られていた福利厚生のぶんを考慮してなお、収入アップとなるかどうかは考えておかなければなりません。
諸々トータルで収入をアップさせるのはなかなか難しいことかもしれません。そのためにはやはりスキルを上げていくことが重要になってくるでしょう。
放送局に勤務するアナウンサーがフリーになって収入が何倍にもなった、とか、スポーツ選手がフリーエージェントとして巨額の契約を結んだ、というような話を聞くと、「フリー」という言葉に「儲かる」というイメージを抱きがちです。しかし、彼らはすでに相当な実績があったからそうなれたのだ、ということは認識しておいたほうがよさそうです。
学生の、就職までの時間つなぎ
学生がアルバイト感覚でフリーランスエンジニアをやるのもままあるケースのようです。
アルバイトよりも時間の融通が利きやすいので学業との両立もしやすいこともあるでしょう。また、その経験が就職活動に役立つこという側面も見逃せません。
短期的にはアルバイトをしたほうが稼げるということもあるかもしれませんが、将来を見据えれば、とても有効な時間の使い方だと言えます。
副収入を得たい
何らかの職業に就いている人が副業としてフリーランスエンジニアをしていることもあります。本業に支障が出にくい働き方として、フリーランスはうってつけです。
終身雇用で黙っていても給料が上がる、という時代ではなくなり、本業とはいっても非正規雇用の人も多いでしょう。そういう中にあって、副業はライフスタイルの一部として定着しつつあります。
本業のほうも在宅ワークであれば、どちらが本業かわからなくなってしまうことも有り得ますが、そのときはフリーランスエンジニア一本に絞るという考え方もできます。
未経験からフリーランスエンジニアになる道筋
ここまでは、未経験という縛りを取っ払い、エンジニア経験のある方も対象にした話をしてきました。
ここからは、少しハードルを上げて未経験からフリーランスエンジニアを目指す方法について考えていきます。
企業で実務経験を積んでから
上で述べた通り、フリーランスでやっていくためには「信頼と実績」が必要です。人脈も大いに力になってくれます。
それらをすべて手に入れる確実な方法が、企業に就職することです。フリーランスエンジニアを目指すなら、開発に携われる職場を選ぶのが近道です。
ただし、すべての人がこの道を目指せるわけではありません。就職には就職の大変さがあります。
就活を控えた大学生ならあまり問題はないでしょうが、現在他の仕事に就いていたり職から離れていたりすると、転職や再就職ということになり、また別の苦労があるでしょう。
けれども、終身雇用が崩れた今、転職は普通のことになりつつあります。目標のために職を変えるというのも、それほど困難なことではないかもしれません。
就業の形や働き方に対する考え方が多様化する中、フリーランスになるために就職する、という発想も決して突飛なものではありません。
いきなりフリーランスに
ほかの仕事をせず最初からフリーランスになりたいとか、何らかの事情で就職が困難だという場合は、名乗りさえすればフリーランスエンジニアになることは可能です。
それで仕事を得るのはなかなか難しいのですが、今はクラウドソーシングというサイトがあります。ネット上で案件とフリーランサーをマッチングするサービスのことです。これによって、以前よりは仕事が得やすくなりました。
とはいえ、スキルや人脈が何もない状態では一本立ちするのは困難です。少なくともスキルは十分に磨いておく必要があります。
副業として実績を積んでから
現在職に就いていて、開発系の企業に転職するのも何だな、と思っているなら、副業として始めてみて、上手くいったら一本立ち、という手もあります。
この方法の利点は、安定した職に就きながら開発の実績を積み、スキルを磨き、さらに副収入が得られることです。
いいことずくめのようですが、本業が忙しい場合にはゆっくりとしかスキルアップできないかもしれません。そのときは学習方法を変えるとか、何らかの工夫が必要でしょう。
別に本業、副業と分ける必要も、もはやないのかもしれません。複数の職業をこなす「複業」の時代がそこまでやってきているようです。
フリーランスエンジニアになる準備
言うまでもないことでしょうが、プログラミング未経験の状態でいきなりフリーランスエンジニアになるのは無謀です。しっかりとした準備が必要です。
具体的には、スキルを習得し、クライアントに見せることのできる何かを作る、ということになります。
コツとしては、闇雲にいろんなことに手を出さないことです。目標を絞り込んで効率よく準備に取り組めば、実はそんなに長い年月かかることではありません。
方向性を決める
フリーランスエンジニアになるためにまずやらなくてはならないのは、自分がどういうエンジニアになになるのか、ということを決めることです。
わかりやすく言うと「どの分野の」エンジニアになるのか、ということです。
SEの仕事は幅広く、分野が違えば必要なスキルも違ってきます。いきなり多ジャンルに精通したスーパーエンジニアになろうというのはあまり現実的とは言えません。
具体的な分野としては、Web開発、PCソフト開発、スマホアプリ開発、AI開発などがあります。それぞれ、次のような言語が主に使われます。
Web開発:HTML&CSS、JavaScript、PHP、Ruby、Python、Javaなど
PCソフト開発:C++、C#、VisualBasicなど
スマホアプリ開発:Kotlin(Android)、Swifti(iOS)など
AI開発:Python、Rなど
これらのうち、未経験者がまず目指すといいのはWeb開発、特にフロントエンドのWeb制作だと言われています。案件数が多く、必要な言語であるHTML&CSSやJavaScriptが比較的簡単で学びやすいからです。
プログラミングを学習する
目指す分野が決まったら、次にプログラミングの学習をします。ここでいかに効率よく学ぶかが、フリーランスエンジニアとしてやっていく上での大きなカギとなります。
学び方は主に3つあります。書籍で学ぶ、プログラミング学習サイトで学ぶ、プログラミングスクールで学ぶ、の3つです。
書籍で学ぶ方法は、網羅的に深いところまで学習するのに適しています。ただし、独学であるため、途中で挫折しやすいと言われています。
プログラミング学習サイトで学ぶ方法は、手軽に始められて、安価に学べるので人気があります。講義動画を見たり、ブラウザ上にコードを打ち込んでいったりするタイプがあります。これもまた一人で学習するものであるため、自分に合ったサイトを選ばないと挫折しがちになってしまいます。
プログラミングスクールでは、オンラインやオフラインで先生に直に教えてもらえます。わからないことはすぐに質問でき、自分に合ったカリキュラムを作ってくれたりするので、学習効率を最大化できます。「人と」学ぶので、挫折も少なくなっています。よいことが多いぶん、それなりに費用はかかります。
時間やお金といった限られた資源をどう配分するかということも含め、「学習」にまつわる問題は難問と言えます。それを解くこと自体がプログラミングのひとつの訓練になっている感があります。
どのような学習方法をとろうと、「続ける」ことが最も大事です。「どうやったら続くか」に主眼を置いて、計画を練ってみてください。
ポートフォリオを作る
学習によってスキルを習得したら、クライアントに見せるためのポートフォリオを作りましょう。
ポートフォリオとは自分の成果物をまとめたものです。クラウドソーシングサイトでは、自分のプロフィールページにポートフォリオを作ることができます。
例えばWeb制作者を目指すならば、自分が構築したサイトへのリンクがポートフォリオになります。
ポートフォリオのために一から作品を作ってもいいですし、学習の過程で作ったものに手を加えて自分のものに仕上げてもよいでしょう。
未経験者が最初の受注をするためには、このポートフォリオが一番のアピールポイントになってきます。気合いを入れましょう。
一度受注できれば、それからはその成果物が新たにポートフォリオへ加えられることになります。そうしてポートフォリオが充実していけば、どんどん受注しやすくなる──うまくすると、このように回転していきます。
未経験者がいきなりフリーランスになる場合には、最初の案件を取るのが一番大変かも知れません。それまでは、とにかく頑張るしかありません。
フリーランスエンジニアとして、プログラミング以外に必要なスキル
ここまでは、どちらかと言えば「エンジニア」の側面に重きを置いて述べてきましたが、今度は「フリーランス」という生き方について考察してみたいと思います。
フリーランスエンジニアは、プログラミングだけをやっていればいいというものではありません。会社員なら会社がやっていてくれるようなことの多くを、自分でする必要があります。
具体的には、以下のような能力が必要です。
時間管理能力
フリーランスは、何時から何時まで働く、ということを誰かに決められるわけではありません。自分で決めるのです。
この案件は納期がいつで、あとこのくらいかかるから、今日はこのくらいやる、というようなことを自分で考えなければなりません。そのためには、作業時間の見積もりを精度よく出さなければなりません。
時間管理能力が、かなり、決定的に重要なのです。
フリーランスにとって一番難しいのは、スケジューリングではないでしょうか。案件をたくさん取れたのはよかったけれど、納期に間に合わず信用がた落ち、みたいなことになっては大変です。
そうかといって、余裕でこなせるくらいの案件しか取らないでいると、ぽっかりと何日も休みができてしまったりして、収入が減ってしまうことになりかねません。
週休2日で1日8時間労働、みたいなことができているフリーランサーは、おそらくほとんどいないのではないでしょうか。
コミュニケーション能力
組織の一員として働くならば、人と円滑なコミュニケーションが取れることが大事なのはよくわかります。
それに対して、フリーランスは一匹狼なので、コミュニケーションは苦手でも大丈夫──かと言えば、そんなことはまったくありません。
案件を獲得する段階でも、案件がスタートしてからも、ずっとクライアントとコミュニケーションをとり続けるのです。
何ターンものテキストのやりとりとか、オンライン会議システム上や直接会っての会話を通じて、相手の要望を理解し、こちらの考えをきちんと伝える必要があります。
一人でやっているからこそ、自分自身が窓口になるしかないのです。その意識で、コミュニケーションについても勉強していきましょう。
営業力
しょっちゅう案件を振ってくれるおなじみさんができればよいのですが、そうなるまでは営業をかけまくらなければなりません。ここでもまたコミュニケーション能力が必要になってきます。
企業に直接売り込みに行って案件を取って来る、などいう本職じみた営業ができるのならばもはや何も言うことはありません。そうでないのなら、クラウドソーシングの提案文面を丁寧に書く、というようなところから地道にコツコツと営業力を磨いていきましょう。
もう一度言いますが、自分が窓口、なのです。
事務能力
意外と見過ごされがちなのが、事務処理能力です。すべての個人事業主にとって基本でありながら、ネックになりやすいところです。
特に経理は重要です。帳簿をつけ、年に一度の確定申告に備えます。必要経費として計上できそうな支払の領収書を取っておいて、整理します。なにかと面倒です。
会計ソフトを使えば帳簿つけに関してはある程度楽ができますが、それでも多少は会計の知識が必要です。税の優遇を受けるために青色申告にする場合は特にそうです。青色申告では決算書を提出しなければなりません。
自分でやるのが無理ならば、税理士などに相談すれば解決することではあります。
まとめ
フリーランスエンジニアには自由と夢があります。その一方で、厳しい現実もあることを踏まえる必要があります。未経験からなろうというのなら、なおさらです。それでも、目標を持ってちゃんと準備すれば、きっと道は開けます。