2020年度からは小学校で、2021年度からは中学校でプログラミングが必修化されました。
そんな中、「学校でどんなプログラミングが行われてるの?」「こどもがスクラッチを使ってるらしいけど、スクラッチって何?」という声をよく耳にするようになりました。
小学校や中学校ではスクラッチを使っていることが多いのですが、保護者の方々にはまだまだ認知度が低いです。
この記事では、スクラッチとは何かを説明し、スクラッチの導入事例や勉強の仕方を紹介します。スクラッチを詳しく理解して、お子さんのプログラミング学習により親密に寄り添えるようになりましょう。
スクラッチとは
スクラッチはマサチューセッツ工科大学メディアラボが開発した、8~16歳向けのプログラミング言語です。
一般的にプログラミングでは、プログラムを完成させるために、プログラミング言語を使って指示を記述していきます。
しかし、プログラミング言語の文法の知識を身に付けることは、子供たちには難しいでしょう。
そこで、子供たちが楽しくプログラミングを学ぶために開発されたのがスクラッチです。
スクラッチはビジュアルプログラミング言語と呼ばれ、指示の書かれたブロックをドラッグ&ドロップで組み合わせてプログラムを作ることができるものです。
操作がとても簡単で、感覚的にプログラミングが可能なので、子供たちはゲーム感覚でプログラミングを学べます。
また、スクラッチを学ぶ環境も整ってきているので、スクラッチは子供がプログラミングを学ぶのに最適です。
以前は、スクラッチを始めるのに専用のソフトをダウンロードする必要があったのですが、現在は新たな環境構築をせずに、webブラウザ上で利用できます。
加えて、かつては自分で作った作品を見てもらうのにJavaを使わなければいけなかったのですが、今ではwebブラウザ上で世界中の人々と作品を簡単に共有することができます。
中には大人も驚くような作品があり、他の子の作品が見れるのは子供たちにとっていい刺激になるでしょう。
このように、スクラッチはもともと子供が学びやすい言語であるだけでなく、学ぶ環境も整ってきているため、学校などの教育の現場でも採用されるほどポピュラーな存在となってきています。
スクラッチでできること
スクラッチは無料で利用できることことや子供用のプログラミング言語であることから、スクラッチでできることが少ないと思う方も多いです。
しかし、スクラッチは難しいコードを子供でも簡単に実行するために作られたため、スクラッチでもできることはたくさんあるのです。
そこで、スクラッチでできることは何があるのかを見ていきましょう。
アニメーション
スクラッチを使って多く作られているのがアニメーションです。
スプライトと呼ばれるキャラクター、数多くの背景や音楽はもともと用意されているものを使えます。
このため、あとはキャラクターをどう動かすかや音楽をどのタイミングで流すかを、スクラッチを使ってプログラミングすれば、簡単なアニメーションの出来上がりです。
アニメーションは、プログラミングをしている途中にキャラクターを実際に動かして、正しく動いているかを簡単に確認できます。
そのため、初心者の方でも自分の想像する作品が作りやすいです。
また、自分でキャラクターや背景などを作ることもできるので、ストーリーやセリフを考えれば、オリジナルアニメを作ることもできます。
スクラッチ上で公開されているオリジナルアニメの中には、テレビアニメのような高クオリティの作品も数多く存在します。
公開されている作品がどのようにプログラミングされているかを見ることができるので、ぜひ気になる作品があれば見て参考にしてみましょう。
スクラッチで公開されているアニメーションの作品はこちらのURLから見ることができます:https://scratch.mit.edu/explore/projects/all
ゲーム
子供に人気の高い遊びであるゲームもスクラッチで作ることができます。
しかし、ゲームを作るには簡単なアニメーションを作るよりも複雑なプログラミングが必要となります。
プログラム自体も長くなり、たくさんの思考錯誤が必要となるため、スクラッチに慣れている子でないと作るのは難しいです。
ところが、公開されているゲームの数はとても多く、今の子供たちの学習能力やプログラミング能力の高さが分かるのと同時に、頑張れば多くの子がスクラッチでゲームを作れるよううになります。
また、マリオやスプラトゥーンを真似したような本格的なゲームもスクラッチで作られているので、ゲーム好きの子はそれらのゲームがどう作られているかを知るきっかけとなるでしょう。
スクラッチで公開されている作品は、誰でも改造することができるため、すでにあるゲームのキャラの動きを変えてみたり、自分で作ったキャラに替えたりする遊び方もできます。
興味があるゲームがあれば、遊ぶだけでなく、どういったプログラムで動いているのかを見てみましょう。
スクラッチで公開されているゲーム作品はこちらのURLから見ることができます:https://scratch.mit.edu/explore/projects/games/
ロボットを動かす
スクラッチはロボットを動かすときにも使えます。
スクラッチでロボットの動きをプログラミングすることで、自分の好きなようにロボットを動かせます。
自分の思った通りにロボットが動く姿に、子供たちは夢中になるでしょう。
また、ロボットから子供たちに作ってもらうことで、プログラミング能力だけでなく創造力も養えるおもちゃが販売されています。
代表的なおもちゃが、レゴ® WeDo2.0です。
レゴ® WeDo2.0はレゴで作ったロボットを、スクラッチでプログラミングすることで、自分の思い通りに動かせる小学生向けのおもちゃです。
自分でつくったロボットが、自分の思い通りに動いたときの感動はさらに大きいものでしょう。
レゴ® WeDo2.0:レゴ® WeDo2.0 ホームページ
スクラッチで学ぶ理由
プログラミングの必修化により、小学校でも導入され始めているスクラッチ。
どうして、こどもたちはスクラッチでプログラミングを学ぶとよいのでしょうか。
ここでは、スクラッチでプログラミングを学ぶことのメリットを紹介します。
プログラミング能力
子供たちはスクラッチを通して、プログラミング能力を高めることができます。
社会が情報化されていくにつれ、人々はITやプログラミングに関する知識が求められるようになりました。
日本ではプログラマーやエンジニアのようにプログラミングを使った職業の需要は拡大しているため、これらの職業に就く人材は不足しています。
また、どの企業もインターネットを活用しており、職業によらず今の子供たちには将来プログラミングの知識が必要となるでしょう。
このため、今の子供たちには子供のうちにプログラミングを学習し、プログラミング能力を高めてから社会に出ることが求められています。
しかし、一般的なプログラミングの文法や知識は子供たちには難しく、プログラミング能力を高めるどころか、プログラミングを嫌いになってしまう可能性が高いです。
そこで、子供用のプログラミング言語であるスクラッチが使われ始めました。
スクラッチは子供の扱いやすさを重視しているため、他のプログラミング言語のように実際の開発現場などで使われることはほぼありません。
ところが、プログラムの構成を考えたり、トライ&エラーを繰り返したりする点で他のプログラミング言語と共通しており、充分にプログラミング能力を高められます。
こどものプログラミング能力を高めるのに、スクラッチは重要な役割を担っています。
論理的思考力
論理的思考力とは、様々な情報の中から必要な情報だけを持ってきて、それらの情報を基に物事を筋道立て考える能力のことです。
例えば、今あなたは先月に行ったイベントの売り上げが目標を超えた理由の説明を上司から求められているとします。
しかしそこで、「売り上げが伸びたのは集客に成功したからです。」とだけ答えても、上司が求める答えにはなっていません。一方論理的思考力があると、その状況からの情報を基に、論理的にその状況を解決しようとします。
この例でいえば、次のように考えられます。
イベントの売り上げが伸びた→集客に成功した→どうして集客に成功した?→若い人にターゲットを絞った。→インスタの宣伝や人気アーティストを呼んだことが成功につながった。 |
このような論理的思考力は社会に出てからも重視されているため、子供のうちから身に付けておくべきです。
そして、論理的思考力を伸ばすのに適しているのが、プログラミングなのです。
プログラミングは、プログラムを完成させるために、必要な処理を選んで組み合わせていく作業です。
この作業には論理的思考力が必要なため、プログラミングでは自然と論理的思考力を伸ばすことができます。
また、スクラッチでもこの作業は変わらず必要なので、子供たちがこの思考力を伸ばすのにスクラッチは最適です。
小学校のプログラミングの必修化もこの論理的思考力を伸ばすことを目的としており、スクラッチはその教材として高い評価を得ています。
他の教科の理解を深める
スクラッチは自分の好きな作品を作れるだけでなく、プログラミング以外の教科に利用することができます。
例えば、算数の授業でコンパスや定規を使って図形を描くのは、小学生にとって少し難しく、時間がかかってしまう作業です。
そして、ただ先生の教えてくれる方法や教科書に載っている方法で図形を描いているだけで終わってしまい、図形の本質を理解できない子もいます。
しかしスクラッチを使えば、どの長さの線をどの角度で組み合わせていくかを考え、プログラミングすれば簡単に図形を描くことができます。そして自分で、この線を時計回りで60度回転させるなどの命令を考えるので図形の作り方の理解も深まります。
実際の小学校の教育現場では、手で行う作業とプログラミングで行う作業の両方を小学生に試させることで、プログラミングの優れているところを実感させているようです。
また、スクラッチは算数だけでなく社会や総合的な時間の授業でも利用されており、他の教科の理解を深めるのに役立っています。
スクラッチの導入事例
ここまででスクラッチがどのようなもので、なぜ使われているのかを紹介してきました。
しかし、スクラッチが具体的に何に使われているかを想像できないという方もいらっしゃると思います。
そこで、最後にスクラッチが学校やプログラミング学習にどのように使われているかを紹介し、スクラッチをより身近に感じてもらおうと思います。
小学校
小学校ではプログラミングが必修化されましたが、新たにプログラミングという科目ができたわけではありません。
算数や社会などの授業の中にプログラミングを取り入れることで、小学生がプログラミングを体験すると同時に他の教科の理解も深められるのです。
このため、プログラミング言語の知識や文法を習うことが目的ではないので、子供用のプログラミング言語であるスクラッチが使われることが多いです。
ここから紹介する事例は、小学校を中心としたプログラミング教育ポータルで紹介されている事例の一部です。
もっと詳しく知りたい方は、ぜひ小学校を中心としたプログラミング教育ポータルのホームページで見てみてください。
(小学校を中心としたプログラミング教育ポータル:https://miraino-manabi.jp/content/285)
ブロックを組み合わせて47都道府県を見つけよう
これは社会科の授業でスクラッチが導入された事例で、都道府県の名前や場所を覚えることを目的とした小学4年生向けの授業です。
この授業では、スクラッチ上であらかじめ47都道府県の特徴が記されたブロックが用意されます。
そして特徴を組み合わると、それに合った都道府県が表示されるというスクラッチのプログラムが使われます。
例えば、兵庫県を表示したいときは、近畿地方・海に面している・世界遺産がある・隣り合う都道府県の数は4とそれぞれ書かれたブロックを組み合わせます。
小学生は地図帳などを使ってその特徴を調べ、ブロックを組み合わせていき、もしその特徴が合っていれば、画面にその都道府県を表示することができます。
スクラッチを使うと正解や不正解がすぐにわかるので、小学生は楽しみながらゲーム感覚で都道府県を覚えられます。
家族と食べる朝食を考えよう
これは家庭科の授業でプログラミングが導入された事例で、小学生に調理の手順を考えさせ、その経験を調理計画に生かすことが目的です。
この授業では炊飯をテーマにしており、鍋での炊飯を経験した生徒たちがその経験を生かし、自動炊飯器の仕組みを解明するのにスクラッチが使われました。
この授業ではスクラッチで作られた炊飯器シュミレーターを使っており、小学生は水加減や浸水時間などの手順を自分で並び替え、水加減や加熱の仕方などの条件も決めていきます。
そしてプログラムを実行して、手順の並べ替えを間違えずにできているかやお米の炊き上がりの状態などを確認します。
もしエラーが出たり、お米の状態が悪かったりしたら、どこを改善するかをグループで話し合い解決策を考えます。
こうして、小学生は炊飯の手順をスクラッチを通して学び、調理計画に生かしていくのです。
プログラミング教室
現在、子供にプログラミングを習わせたいという需要は高まっており、全国に子供向けのプログラミング教室が増えています。
そして、プログラミング教室でもスクラッチが導入されていることが多いです。
これらの教室では、先生が教えてくれるので子供でも挫折することが少なく、ロボットやゲームなどのスクラッチでも少し難しい分野を教えています。
例えば、プロ・テック倶楽部では小学校1~3年生向けにスクラッチでのゲーム作りのコースを開設しています。
そしてその次の段階で、他のプログラミング言語を使った本格的なプログラミングを始めるコースへと進んでいきます。
(プロ・テック倶楽部:https://protech-club.com/course/)
このように、プログラミング教室では本格的なプログラミングを勉強する前に、練習として、子供にスクラッチでロボットやゲームの分野に触れさせているようです。
オンラインで教えてくれる教室も最近は増えているので、本格的にプログラミングを子供に始めさせたい方はぜひ調べてみてください。
スクラッチを個人で学習する
スクラッチの最大の特徴は、誰でも無料で簡単に使えることです。
そこで、スクラッチを自宅で学習させる保護者の方も多いですし、それを助けてくれるようなwebサイトや参考書も多数存在します。
ここでは、スクラッチの自宅学習を助けてくれるwebサイトや参考書の例を挙げながら、その特徴を紹介します。
webサイト
まず、スクラッチをまだやったことがないという方には、スクラッチの公式が公開しているコーディングカードを参考にしてもらえたらと思います。
これは208ページと非常に長くなっているのですが、スクラッチの基本的な操作方法が学べるため、スクラッチで本格的なアニメーションやゲームを作りたい方はまずここから始めてみるとよいでしょう。。
(コーディングカード:https://resources.scratch.mit.edu/www/cards/ja/scratch-cards-all.pdf)
また、webサイトの特徴は色々な作品を紹介してくれていることです。
「スクラッチ ゲーム」や「スクラッチ アニメーション」で調べると、おすすめ作品やその作り方を紹介するwebサイトが出てきます。
スクラッチは、公開されている作品のプログラムを見ることができるので、それを真似しながら自分でスクラッチを学べます。
このため、参考書などで学べないことが、このようなサイトに紹介されている作品から学べることが多いです。
参考書
スクラッチの参考書は子供向けに作られているため、写真やカラーで作られており、とても分かりやすいです。
また、参考書は作品の作り方が載っているため、自分で作品を作るという経験が得られます。
プログラミングはどんな作品を作る時も、他の作品を作った時の知識や経験が関わるので、自分で作品を作る経験は後々役に立つでしょう。
ここで、紹介する参考書はジュニア・プログラミング検定 公式テキストです。
実は、プログラミングの世界にもプログラミングの知識やスキルを測る検定があります。
ジュニアプログラミング検定は子供用の検定で、スクラッチを使って課題で出されるプログラムが作れるかが試験内容となります。
試験や検定と聞いて、子供はそこまで本気じゃないからと思う方もいると思います。
しかし試験に合格した時の喜びや勉強のモチベーションが上がることは、皆さんにも経験があるのではないでしょうか。
せっかくスクラッチでプログラミングを学び始めるのですから、この公式の参考書を使って、検定にも挑戦するといいと思います。
検定の合格を機に、あなたのお子さんが優秀なプログラマーやエンジニアとしての第一歩を踏み出すかもしれません。
(ジュニアプログラミング検定:https://www.sikaku.gr.jp/js/ks/learn/)
まとめ
今回は、子供用のプログラミングの教材として、小学校でも多数導入されているスクラッチについて紹介しました。
小学校でのプログラミング必修化などから分かるように、今の子供たちにはプログラミングの知識を身に付けることが必要とされています。
スクラッチはそのような子供たちにとって、最高の教材の一つです。
子供でも扱いやすいように設計されていますし、自宅で簡単に使えるのも大きな特徴です。
このため、保護者の方には今回の記事を読んで、スクラッチの理解を深め、お子さんのプログラミング学習の手助けをしてあげてほしいなと思います。
あなたのお子さんが楽しくスクラッチを通してプログラミングを学べることを願っております。