「これからの時代、英語よりもプログラミングだ!」と、プログラミングを学び始めた方もいらっしゃるでしょう。ひょっとすると、「英語が苦手だから」プログラミングのほうに進んだ方もいるかもしれませんね。
そういう方々に冷や水を浴びせるわけではありませんが、プログラミングは、英語です。
プログラマーのやっている仕事を見てください。パソコンの前に座って、一日中キーボードからアルファベットを打ち込んでいます。
ABCなんか見るのも嫌だ、という人にとてもつとまる仕事ではないのです。
それでは、英語が苦手な人はエンジニアになることをあきらめなければならないのでしょうか?
そんなことはありません。英語学習環境は、かつてないほど整っています。この記事を最後まで読んで、苦手意識を払拭してください。
エンジニアにとっての英語の必要性
多くの人は、プログラミングを始めてすぐに気付くでしょう。「これは、英語がわからないとダメだな」と。
プログラムのソースコード自体が英語だし、トラブルを解決しようとすると英語の情報しか得られなかったりして、どこもかしこも英語の壁だらけなのです。
なぜ英語なのか、ということは各自歴史の勉強でもしてもらうことにして、とにかくコンピューター言語よりも先に英語が我々日本人の前に立ちはだかります。
どんなところに英語の壁があるのか、具体的に見ていきましょう。
プログラムは英語でできている
コンピューター言語の中には、「機械語」と呼ばれるものがあります。これはコンピューターに実行させる命令を0と1の羅列で表したもので、人間には読めません。その機械語を、人間に理解できる自然言語に近づけたものが「プログラミング言語」であるというふうに考えることができます。
その「人間に理解できる自然言語」というのが、英語なのです。少なくとも、普通に使用されているメジャーなプログラミング言語は、すべて英語が元になっています。
例として、次のような簡単なコードを見てみましょう。Rubyという言語で書かれたものです。
require 'date'
d = Date.new(2022, 1, 1)
puts d.year
puts "Happy New Year #{d.to_s}"
もう、バリバリ英語ですね。
1行目にある require という英単語の意味はおわかりでしょうか?Ruby内での意味は知らなくても、英語としての意味がわかればなんとなく動作の推測ができます。逆に、英語がわからないとプログラムの意味を理解するのにも余計に時間がかかることになります。
ちなみに、Rubyは日本人が作った言語です。それでいて、これほどまでに英語なのです。
上のコードの最後の行にある Happy New Year というところは、日本語の「あけましておめでとう」などに変えることも可能です。画面に表示させる文字列なので、多言語に対応しています。ただし、そのまま日本語に変えただけではエラーが出ることがあります。Ruby内で日本語を使うには、ちょっとしたお膳立てが必要なのです。
英語を表示するのは設定無しで大丈夫なのに、日本語を表示するためには設定がいる。なかなか世知辛いですね。日本人が作ったものとはいえ、Rubyはもはや世界標準の言語になったということです。
このほか、コーディングをしていると、変数名やメソッド名など、大量の名前を考えることになります。それらはすべて、わかりやすい英語で書くことが望まれます。そこにもなかなかの英語力が要求されます。
大げさに言えば、ロジックを考えるより英語で名前を考えるほうが時間がかかっているのではないか、と思えるくらいです。
エラーメッセージやドキュメントを読む
プログラミング言語自体も英語なら、その周辺情報の多くも英語です。
例えばエラーメッセージ。これも、大体の言語において英語で示されます。
日本語にローカライズされた開発環境が提供されているプログラミング言語では日本語のエラーメッセージが読める場合もありますが、それは希なことだと思っておいたほうがいいでしょう。基本的に、エラーメッセージは英語で読むものです。
おそらく初心者ほどエラーをたくさん出すでしょうから、英語が読めなければメッセージの意味がわからずオロオロすることになります。英語に抵抗感がなければ、じっくり読み込んで原因を追及することもできるのですが。
ドキュメント類も、大概英語です。外部ライブラリの使い方を示すドキュメントが英語でしか読めないことはよくあります。それが当たり前とも言えます。日本語で読めるのは、日本人が作ったライブラリか、さもなければどこかの奇特なお方が翻訳してくださったものくらいです。
会社勤めのエンジニアならば、周りの英語に強い人に聞くということができるかも知れません。しかしフリーランスはそうもいきません。
ネット上の翻訳サービスを使うこともできますが、若干何をいっているかわかりづらい訳になることもあります。英語が読めるなら、そのまま英語で読んでしまったほうが手っ取り早いです。
書籍や最新情報に触れる
エンジニアは、常に学び続け、最新情報を取り込み続けなければならない職業です。そして最新情報はほとんど英語で発信されます。
あるジャンルのエキスパートになろうと思ったら、技術書や専門書を読む必要が出てきます。そういう本は、英語で書かれたものが質・量共に他の言語を圧倒しています。
気になる本があっても、英語だからと躊躇していては世界からおいて行かれます。翻訳されるのを待っていては、下手をすれば何年も先になります。翻訳されるかもわかりません。翻訳されるのは、全体のほんの一部だけです。
自分の専門分野の本くらいは、英語でスラスラと読めるようになりたいものです。
英語ができると、仕事が広がる
案件の中には、英語ができることが条件になっている、いわば「英語案件」とでもいうべきものが存在します。英語が堪能になれば、そういうところにも手が届くようになります。
英語案件の具体例としては、国際企業が発注する案件や、海外に拠点を置く開発会社から回ってきた案件などがあります。
順に見ていきましょう。
国際企業の案件
日本の中には、世界に市場を広げている企業がずいぶんあります。そういう企業が海外市場向けのサービスを運用しようとすれば、当然英語のできるエンジニアが必要になってきます。
海外にある部署や海外の外注先とのコミュニケーションも発生し、最低限テキストベースでのやりとりが求められます。
今後、オンライン会議システムを通してやりとりをすることが増えていくと予想されます。そうなると、英語での会話力も必要になってきます。
海外に拠点を置く開発会社の案件
英語に自信がついてくると、日本企業の案件だけでなく、海外の案件にも目を向けられるようになります。
ズバリ、海外のクラウドソーシングサービスに登録して、海外案件の受注を目指してみるのはいかがでしょうか?Upworkなどの海外クラウドソーシングサイトでは、世界中のクライアントが世界中のフリーランサーに向けて案件を提示しています。
海外のクラウドソーシングサービスの使い勝手は日本のものと大体一緒なので、日本のものを使い慣れている方には特に戸惑いはないでしょう。
案件獲得のためにはコミュニケーションのための英語力が必要ですが、もちろんエンジニアとしてのスキルが最重要です。海外勢に負けないスキルを持っている自信があるのなら、より幅広い案件の中から自分にマッチするものを探せる海外案件は、とても魅力的です。
もちろん、英語力に関してはネイティブにはかないません。だからといって開発スキルで劣るわけではありません。
その証拠に、英語を母語とするすべての人がプログラミングが得意なわけではありません。苦手な人も、ちゃんといます。英語を母語とするエンジニアにも、優秀な人もいればそうでもない人もいるのです。
勝機はあります。
お勧めの英語学習法
ここまでのところで、エンジニアにとっての英語の重要性はご理解いただけたことでしょう。そこで、ここでは英語の学習法についてお話しします。
「でも、留学経験もないし、自分には英語は無理なんじゃ・・・」とお思いですか?いえいえ、そんなことはありません。国内にいながら英語力を高めることができる優れた方法はたくさんあります。お金もそんなにかかりません。
今、この世界は史上類を見ないほど英語学習に適した環境にあるのです。
そんな暇があったら技術の習得に使いたいという方もいらっしゃるでしょう。いえ、そんなに時間をかける必要はありません。長くても1日1時間、平均して1日30分程度やれば、十分効果は見込めます。
ただし、少しでもいいので毎日続けることを心がけてください。語学学習ほど「コツコツと」という言葉が似合う学習分野もありません。とにかく続けることが一番大事、という意味では、プログラミング学習と同じです。
そう、英語学習はプログラミング学習に似たところがあります。どちらも「言語」であり「英語」なのです。平行して学ぶことによって相乗効果も期待できそうです。
明確な目標を持つとよい、というところも英語とプログラミングの学習に共通するところです。
テキストベースのコミュニケーションが取れれば、つまり読み書きができればよいと思う方もいらっしゃるでしょう。でも、ここはやはり「しゃべれるようになる」ことを目標にしてただきたいところです。言語の本質は、話し言葉なのです。
読む・書く・聞く・話すといういわゆる4技能を鍛えることで、学習効率が高まります。音声を伴った教材を使って、音読をたくさんするようにしましょう。音読こそが、英語脳を作るためのカギです。
英語学習法や教材は世の中にあふれかえっていて、どれを選んでいいかわからない、という方もいらっしゃるでしょう。そういう方のために、次にお勧めの学習法を厳選してご紹介します。どれも手軽に始められて、短時間から学習できるものです。どれか一つだけでもいいので、続けてやってみてください。
NHKラジオ講座
イチオシは、NHKラジオの英語講座です。100年近く前から続いている、歴史ある学習法です。
様々なレベルや内容の講座があって、自分に合ったものを選べます。もちろん複数の講座を聴くのも大いにアリです。
各講座は、短いもので1回5分、通常1回15分で、週2、週3、週5回レッスンのものがあります。再放送もあるので、1日の中で都合のいい時間に聴くことができます。ラジオのほか、パソコンやスマホでも聴けます。翌週には聴き逃し配信され、こちらは時間に関係なく聴くことができます。
ラジオ講座を聴く最大の利点は、学習を習慣化しやすいことです。毎日決まった時間に聴くことによって、自動的に学習が継続されます。
テキストを買って、放送終了後に繰り返し音読するのがお勧めです。キーセンテンスは暗唱できるようにしましょう。そうすることで徐々に話す力がついていきます。余裕がある人は、全文暗唱に挑戦しましょう。
教材をどさっと買って挫折したことがある人は、一度ラジオ講座を試してみてください。4月開講の講座が多いですが、別に何月からでも大丈夫です。
シャドーイング
次にお勧めする英語学習法は、シャドーイングです。ラジオ講座などで基礎が身についてきた段階で取り組んでみましょう。
やることは単純明快です。英語の音声を聞きながら、それをそっくり真似してちょっと遅れてついていくのです。影のようにあとをついていくことから、シャドーイングと呼ばれます。
次のようなものを用意します。
- ひとまとまりの、文字で書かれた英文
- その英文をネイティブスピーカーが読み上げた音声(CDやデジタルデータなど)
- 音声を再生する機械
- ヘッドフォン
文章の長さは、読み上げる時間にして1~2分くらいのものがちょうどいいでしょう。「シャドーイング」とタイトルについている書籍がたくさん出ていますので、そういう教材を使うのもいいでしょう。
進め方はいろいろありますが、例えばこんなふうにやります。
- 音声を1度通して聞く。文字は見ない
- 音声を聞きながら小声でぶつぶつ真似してみる
- 音声を何度も流しながら、次第にはっきりと真似をする
- いったん文字を見て、ちゃんと聞き取れていたか確認する
- さらにそっくりに真似できるようになるまで繰り返す
1日20分もやれば、けっこうへとへとです。最初はとても難しく感じるかもしれませんが、だんだんと慣れていきます。自分の声とかぶって音声が聞き取りづらいので、ヘッドホンを使うことをお勧めします。
続けていくと、まず耳の変化に気付きます。以前より英語が聞き取れるようになった、と感じるはずです。そしてだんだんと英語が口をついて出てくるようになり、話す力が増します。語彙力も上がってきます。
シャドーイングは、科学的裏付けのあるとても優れた学習法です。慣れれば家事などをしながらでもできますし、ちょっとしたすき間時間の活用にもってこいです。
動画配信サービス
映画やドラマをはじめ、様々な映像が配信で見られる時代です。もちろん英語のものも大量にあります。それらを活用しない手はありません。
好きな作品を何度も観るタイプの人には、映画がお勧めです。有料の動画配信サービスの中には、英語字幕付きの作品をそろえているところがあるので、そういう作品を活用しましょう。
1度目は日本語字幕で普通に楽しんで内容をつかんだあと、2度目は英語字幕付きで、3度目は字幕無しで、というようなやり方が考えられます。そうやって英語表現を学び、耳を鍛えます。聞き取りづらいところは「10秒戻し」の機能などを使って繰り返し観るとよいでしょう。
ただし、映画の英語は、学習者向けの教材に比べてだいぶ難しいことが多いので、ある程度英語力のある人向けということになります。1本が2時間前後と長いのもネックです。
YouTubeで無料配信されている海外の動画を見るのも、勉強になります。俳優やアナウンサーではない、一般の人達の話す英語は、ときに聞き取りづらいと感じることもありますが、自然な生の英語を聞く訓練になります。
何か趣味があれば、それに関連するキーワード(もちろん英語)で検索してヒットした動画を見るのがお勧めです。2人くらいの人がその趣味について会話しているような動画があれば、英語の教材としては最高です。
もし話すスピードが速すぎると感じたら、再生速度を遅くすることもできます。また、英語字幕を出すこともできます。AIで自動的につけられた字幕は時々間違っていたり、荒いところもありますが、何を言っているかはほとんどわかります。速読の訓練にもなりそうです。
そして何と、日本語字幕を出すこともできます。自動翻訳で出てくる字幕の精度はまだまだといったところですが、概要をつかむくらいはできます。
こういうテクノロジーに触れることで、英語学習に役立つと同時に、エンジニアとして何かしらの刺激を受けるのではないでしょうか。
アプリ
英語学習用のスマホアプリにも、最新のテクノロジーが使われています。日本語の文が与えられて、それをとっさに英語に変換してしゃべったものを、AIが評価してくれる、というようなものです。
アプリの内容や学習法は、非常に多岐にわたっています。無料のもの、有料のもの、日常会話中心のものやビジネスシーン中心のもの、試験対策に特化したもの、動画を見て学ぶもの、オンラインでネイティブスピーカーと会話できるもの等々。
アプリのよいところは、なんといっても「双方向性」でしょう。自分の答えに対して、正解不正解などの反応が即座に返ってくることによって、やる気が維持しやすくなっています。
プログラミング学習サイトでプログラミングを学ぶのに似た感覚です。そういう方法で学ぶのが好きな方には、うってつけの学習法です。
まとめ
英語は、エンジニアにとっての大切な道具です。これに拒絶反応を示すようだと、先が思いやられます。苦手意識は早めに克服しましょう。もちろんエンジニアとしての技術習得が第一優先ですが、平行して英語を学ぶことで、技術のほうにも必ずや好影響が現れるでしょう。